市民が原発を検証
新潟各地で対話集会
国が原発再稼働の動きを強める中、東京電力柏崎刈羽原発を抱える新潟県では、市民が原発の安全性を検証する「市民検証委員会」を発足させ、県内各地で対話集会を重ねています。県民主体の「市民検証総括」の作成をめざしています。(新潟県・伊藤誠)
新潟県がすすめてきた原発の「三つの検証」委員会は、事故原因、健康被害と避難生活への影響、避難方法の「三つの検証」報告書を今年3月までにすべて花角英世知事に提出しました。ところが県は、全体をまとめる検証総括委員会を、池内了(さとる)委員長(名古屋大学名誉教授)と意見の相違があるとして2年以上開かず、今年3月には花角知事が検証総括委員7人を再任せず消滅させました。県職員が検証結果をとりまとめます。
これに対して、検証総括委員会の前委員長、池内了名古屋大学名誉教授らは、「積み上げてきた三つの検証が台無しになる」「柏崎刈羽原発の安全性や科学的な評価が保障できない」として、広く検証の内容や課題を知らせる対話集会をすすめ、市民検証委員会を発足させました。
対話集会は毎回、池内氏の報告後に数人のグループで疑問や意見を出し合うワークショップ形式でおこなわれています。前検証総括委員・避難委員会副委員長の佐々木寛新潟国際情報大学教授や健康・生活委員会委員の木村真三獨協医科大学准教授も参加し、参加者の疑問などに答えています。各地の参加者の意見は蓄積され、分野ごとの議論や調査なども深められています。
8月27日の長岡市の集会には100人以上が参加しました。
報告に立った池内氏は、県が9月中にも発表の可能性がある総括報告書は、福島原発事故の検証のみで、柏崎刈羽原発の安全性や東京電力の適格性に言及しないものになるであろうと指摘。福島原発の機械が壊れたのは津波によるのか地震動によるのか、大雪との複合災害時の避難など多くの重要な課題で結論が得られないままで終わっているとして、県民の安全を守る対策をとることはできないと述べ、可能性のあるすべての原因に対して安全が守られる対策こそが必要だと強調しました。
グループ討論では、「昨冬の大雪では長岡市の国道でも車の立往生が起きた。原発事故が起きても避難できない事態で県民の命をどう守るかもっと検証が必要だ」「長岡市はほとんどの地域が原発から30㌔圏内で住民は屋内退避が求められるが、大雪でつぶれそうな時の屋根の雪下ろしはどうするのか」などの意見が交わされました。
「福島原発事故の汚染水はアルプス処理ですべての放射性物質を除去できるのか?取り除けなかったものはどうするのか?」「安定ヨウ素剤は事故直後に誰が配るのか?飲むタイミングに間に合うのか?」などの質問もだされました。池内氏らは「トリチウム以外にも除去できない放射性物質が何種類も残るが、それも薄めて海に放出する計画」「新潟県は、30㌔圏内の希望する住民に安定ヨウ素剤を事前配布することにしたが、住民説明会も不十分で知られていない。福島事故では国からの指示待ちで混乱が起きた。事前配布や飲む指示を誰がするか、住民が自分たちで決めることが大切」などと答えました。
池内氏らは、さらに議論を重ね、柏崎刈羽原発の安全性について県民が判断するための材料を示す「市民検証」(仮称)パンフレットを刊行することにしています。(『しんぶん赤旗』2023年9月6日)